「冬の大三角」のひとつ、ベテルギウスが近年、超新星爆発するのではと話題になっています。夜空でベテルギウスを探すときの目印は、オリオン座の三つ星。「オリオンのベルト」とも呼ばれる、並列する3つの星です。その付近にみえる、オレンジがかった赤い星。それがベテルギウスです。いったいどんな星なのでしょうか。超新星爆発とは?地球への影響は?
天文学に詳しい、山陽学園大学(岡山市)地域マネジメント学部の米田瑞生さんに教えてもらいました。
ベテルギウスってどんな星? 寿命を終えたありふれた恒星「赤色巨星」
【画像①】アルマ望遠鏡がとらえたベテルギウス ALMA (ESO/NAOJ/NRAO) /E. O’Gorman/P. Kervella
ーベテルギウスはどんな星なのでしょうか。(山陽学園大学地域マネジメント学部 米田瑞生さん)「ベテルギウスは、赤色巨星に分類される恒星です。恒星は、水素を燃料として核融合によりエネルギーを生み出しています」「太陽も恒星ですが、太陽は『主系列星』に分類されています。『主系列星』は、安定的に核融合を維持している恒星です。太陽は、現在46億歳。太陽の恒星としての寿命は、100億歳と推定されます」「あと50億年ほどすると、太陽の核融合をするための水素が足りなくなり、不安定化し膨張します。これが赤色巨星です。どのくらい膨張するかというと、地球を飲み込むくらいになるかもしれません」ーその後はどうなるのでしょうか。
「太陽のような恒星の場合、赤色巨星の後、緩やかな爆発を起こし、『白色矮星』という余熱で輝く小さな天体の周囲に、『惑星状星雲』というカラフルな星雲を形成します【画像②】」
(山陽学園大学 米田瑞生さん)
「ベテルギウスも赤色巨星ですから、寿命を終えたありふれた恒星の姿ということになりますが、太陽の未来の姿とは幾分異なります」
「赤色巨星」がさらに崩壊し「超新星爆発」へ…ブラックホールになる?
ーベテルギウスの場合は、どうなるのでしょうか?(山陽学園大学 米田瑞生さん)「ベテルギウスは非常に重い恒星です。太陽の10 倍から20倍の質量があります。このように重たい恒星の主系列星としての寿命はとても短いものです」
「ベテルギウスの場合、1,000万年も経ずに赤色巨星になります。そして、赤色巨星がさらに崩壊するときに発生するのが、超新星爆発です【画像③】」
【画像③】大質量星の最期のイメージ 国立天文台
(山陽学園大学 米田瑞生さん)「超新星爆発は、大変なエネルギー放射を伴う爆発です。恒星は、水素を核融合により重い原子を生成しますが、鉄より重い原子は生成できません」「生命の維持に必要な銅や亜鉛といったミネラルは、超新星爆発によって生成されました。太陽系誕生以前に、超新星爆発により崩壊した重い恒星達が残したミネラルが宇宙空間に漂い、それが太陽系形成時に取り込まれて、現在の地球があることが分かります」ーベテルギウスが超新星爆発を起こしたら、どんな影響があるのでしょうか。(山陽学園大学 米田瑞生さん)
「太陽質量の20倍以上の重い恒星が超新星爆発を起こすと、ブラックホールが形成されることが分かっています。ベテルギウスの質量は正確には特定されていないので、ブラックホールになるかどうかは、微妙なところです」
近年、ベテルギウスが暗くみえるのは超新星爆発の兆候?
ーベテルギウスの超新星爆発は、いつ起こるのでしょうか?(山陽学園大学 米田瑞生さん)「近年、ベテルギウスの超新星爆発が話題になるのは、ベテルギウスにある異変が見られているためです。赤色巨星は、もともと不安定な天体ですから、明るさが安定しないものなのですが、ベテルギウスは2020年以降、暗くなることが増えました」「星空をよく眺める人にとっては、『オリオン座がなんだか変』と思えるくらいの変化かもしれません。『ベテルギウスがいよいよ赤色巨星としての寿命も終え、超新星爆発を起こす兆候だ!』と考える人もいるでしょう」「ただ、私は、私たちが生きている間にベテルギウスが超新星爆発を起こすことについては、懐疑的です。確かに、ベテルギウスはいつ超新星爆発を起こしてもおかしくない、赤色巨星ではありますが、ベテルギウスが超新星爆発を起こしうる期間は、1万年や10万年といったタイムスケールでしょう」
「いくら寿命が短い恒星といっても1,000万年。我々の期待するタイムスケールより、とてつもなく長いのです」
平安時代に「超新星爆発」があった!藤原定家が「明月記」に記録
(山陽学園大学 米田瑞生さん)「人類は歴史の中で、いくつか超新星爆発を目撃しています。特に有名なのが、1054年、平安時代に発生したものです」ー当時の日本からは、どのように見えていたのでしょうか。「おうし座の方向で発生した超新星爆発は、平安貴族である藤原定家が執筆した明月記にも記録されています。『金星のように明るい星が現れた』『2年間見えていた』とのことです」
「この超新星爆発の名残は、現在も望遠鏡を使えば見ることができます。『M1 かに星雲』【画像④】は、この時の超新星爆発の残骸です。冬の空で、天文愛好家達に好まれる天体の一つです」
ーM1かに星雲の超新星爆発による地球への影響は、あったのでしょうか。(山陽学園大学 米田瑞生さん)「当時、地球でも宇宙線などの増加はあったのだと思います。ただ、平安時代は人工衛星も電波通信もありませんでしたから、影響はなかったのではないでしょうか。星を頼りに方角を認識している渡り鳥には、迷惑なことだったかもしれません」
「M1 かに星雲の超新星爆発は、地球から数千光年のところで発生しました。一方、ベテルギウスは地球から500光年の距離にあります。ベテルギウスの超新星爆発は、M1 かに星雲より大きな影響を地球にもたらすかもしれません」
ベテルギウスが超新星爆発したら、地球はどうなる?
ーベテルギウスが超新星爆発すると、地球へはどんな影響がありそうですか?(山陽学園大学 米田瑞生さん)「超新星爆発で発生する大量の放射線・宇宙線が地球に降り注げば、生命の危機とはならなくても、太陽フレアのように通信障害や、人工衛星の異常を引き起こすことがないとは言えないのです」
「そして、このような近距離で起きる超新星爆発は、地球からは月のように明るい発光として観測されるかもしれません。個人的には、このような一大イベントを生きている間に見てみたいものです」